理念・方針

法律家に不可欠の資質はバランス感覚であるといいます。
私は、事案処理において以下の三つのバランスに留意しています。

、和戦両様のバランス

 弁護士の仕事には雇われ軍師のような側面がありますが、外交官的な側面も重要です。
 紛争当事者の間には潜在的又は顕在的な敵対関係があるものの、他方において問題の解決という共通の利益の実現を目指すパートナーでもあります。
 まずはこの両面をバランス良く認識することが必要です。
 敵対関係だけを重視すると疑心暗鬼に陥ってしまい問題を解決できません。
 他方でパートナーの側面だけにもたれかかるのは余りにもナイーブで足元をすくわれる危険があります。
 交渉においては争訟を睨みつつ、争訟においては争いつつも振り上げた拳を下すタイミングを見極めるという、硬軟取り混ぜた対応が重要だと考えています。

二、理想と現実のバランス

 弁護士は危機管理に携わる仕事といえますが、危機管理に必要な心構えはリアリストであることです。
 「人間がいかにして生きるべきか」と「人間がいかにして生きているか」とは必ずしもイコールではありませんし、法の理想だけで世の中が動いているわけでもありません。
 美しい理想や高邁な理念を語るのは簡単ですが、実現不可能では意味がありません。
 所与の現実の下で何が可能で何が不可能なのか、可能な方策の中では何がベターなのか、所与と思われた現実を変えることはできるのか等、「あるべき姿」と「あり得る姿」のバランスを常に問い続け、依頼者と共に考えるように心掛けています。

三、正義のバランス

 弁護士の使命は社会正義の実現ですが、他方において正義は取扱い注意の諸刃の剣であり、素朴で一本気な正義感は、時として危険極まりないものです。
 何が正義かという難しい議論はさておき、現実の世界では、何が正しいかは相対的で、その人の置かれた立場、物の見方、周囲の状況等に応じて幾通りもの正義がありますし、時代の変化によっても異なってくるので、一つの正義だけを絶対視して大上段に振りかぶり、魔女狩り的な対応をとることは慎まなければなりません。
 「正義」という言葉は、胸を張って口にすべき言葉ではなく、もっと控え目に口にすべき言葉です。
 その意味で、正義もまたバランスの中にこそあると考えています。